平成26年度法科大学院9月入学式 学長式辞

Date:2014.09.20

皆さん、法科大学院へのご入学、誠におめでとうございます。本学法科大学院は、日本で初の9月入学を始めた大学です。本年が2年目になりますが、本年は5人もの方々に入学願い、教職員一同、喜んでお迎えしているところです。
本日の入学式は駒澤大学にとりましても、日本の法曹界にとりましても、昨年が第一歩であるならば、本日は、大きな第二歩目を踏み出したことになります。一大慶事であります。

駒澤大学学長 廣瀬 良弘今日、日本の文化を代表するものの多くは、室町から近世初期に育まれたものです。能・狂言から歌舞伎、茶道、華道、枯山水の庭、水墨画・金山寺味噌・醤油、インゲン豆、タクアン、玄関、書院造り・床の間の文化です。これら文化のベースにあるのが、禅の精神です。たとえば、能の大成者として知られる世阿弥も曹洞宗禅僧の門弟です。この日本文化に大きな影響を与えた禅・仏教の精神を研究・教育の場に生かし、継承してきたのが駒澤大学です。

東京はこの度、2度目のオリンピック誘致に成功いたしましたが、その江戸・東京の開闢の祖とされる太田道灌は江戸城を造り、その傍らに本学の前身の前身である曹洞宗吉祥寺を建てます。今から550年前のことです。本学の傍に駒沢オリンピック公園が500年後に出来ましたのも不思議な縁だと思います。
天正18年(1590)、徳川家康が江戸に入城し、その拡張工事のために、吉祥寺は堀の外、水道橋のほとりに移転します。
文禄元年(1592)、その吉祥寺の境内に旃檀林(当時は学林)が建てられます。420年前のことです。
江戸時代はじめの明暦3年(1667)、振り袖火事の炎は天守閣にまでおよびました。これにより城周辺の寺は移転することになり、吉祥寺(旃檀林)は駒込に移転します。学林は東大の前身であります幕府の昌平坂学問所と学の高さを競ったといいます。
そして明治15年(1882)10月15日、麻布の北日ヶ窪に校地を求め、寺から独立して、曹洞宗大学林専門(学)本校が開校しました。現在の六本木ヒルズ・テレビ朝日のあたりです。一昨年、開校130周年を迎えました。
そしてこの地で30年、大正2年(1913)に麻布の北日ヶ窪から駒沢の地に移転してきました。今から101年前のことです。

法科大学院入学式式場 法科大学院入学式式場 このような伝統と歴史の中で、駒澤大学は、仏教の教えと禅の精神を建学の理念、つまり教育・研究の基本としてきました。この建学の理念は、永きにわたり「行学一如」という言葉で表されてきました。この言葉は、曹洞宗の開祖・道元禅師が示された、最も根本的な教えである「修証一等」(しゅしょういっとう)という言葉を大学の教育・研究の基礎としてあらためて表現し直したものです。「修」(坐禅修行)と「証」(悟り)は一体であり、悟りは彼方にあるのではなく、坐禅修行そのものが悟りであるとされ、「行」の面を重んじたのです。

大學では「行」とは自己陶冶(とうや)、すなわち自分をより優れた人間として育て上げる自己形成のこと、「学」とは学問研究のことです。そして「行学一如」とは、「自分をより優れた人間に成長させることと、学問研究に励むことは一つのことである」という意味です。
「行学一如」は、仏教の教えと禅の精神が息づく高い倫理観に支えられています。この倫理観は、少しも難しいものではなく、思いやりや気配りの心を大切にしようという人間として当たり前のことを求めているにすぎません。ただし、当たり前のことであっても、ついつい忘れてしまうことでもあります。仏教は、あらゆるものを大切に扱おうという慈悲の心を教えます。「行学一如」に従えば、この慈悲の心も、人から教わったまま頭の中にあるだけで行動を伴わなければ何ものでもありません。この学ぶ姿勢と不可分の行動力の重視、つまり「学」と不可分の「行」の重視こそ、駒澤大学の特色であります。
本学の法科大学院はこの建学の理念「行学一如」、学問研究をアクティブに実践に移す、ということを受けて、「理論と実務を架橋する教育」をモットーにしております。そして、駒沢法曹の世田谷地域への貢献、全国曹洞宗1万4千か寺とその檀信徒を通じた地域・地方への貢献も目指しております。
本学の法科大学院は発足以来、五十名近い司法試験合格者を出しております。地域貢献・地方貢献、そして、本学学生への援助も期待されているところです。
法科大学院につきましては、昨今、制度設計上の問題点ないし法曹志願者の激減などという問題も浮上し、法曹養成に関わる関係省庁ないし関係閣僚会議で議論され、司法試験合格者の削減などが問題視されているところですが、全力を挙げて、駒澤大学建学の精神と理想を体得した有為な法曹を、引き続き養成していく所存であります。また、法科大学院改善を目指した諸制度を精力的に検討し企画実行しているところでありますが、その中でも、第一の改革が、この九月入学であります。


これまで、肩がこるようなことを述べてまいりましたが、皆さんには、肩を張らずに、のびのびと学習していただき、駒澤大学の建学の理念、本学法科大学院の理念を体得した人間味あふれる法曹に育ってほしいと思います。全学を挙げて全面的にバックアップしてまいります。安心して駒澤のキャンパスライフをお楽しみください。本日は誠におめでとうございました。

平成26年9月20日
駒澤大学 学長 廣瀬 良弘