平成29年度 入学式 学長式辞
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、ご家族をはじめ関係者の皆様にも、心よりお祝いを申し上げます。キャンパスの桜の大樹が見事な花を咲かせ、まさに桜花爛漫のなかで本日の入学式を迎えることができました。
本日4月8日は、壇上正面に座すお釈迦様のお誕生を祝福する日でもあります。各地の寺院では、お釈迦様の小さな像に甘茶をかけて祝います。その意味で本日の雨は、お釈迦様の生誕とともに、新たに大学生となられた皆さんの誕生を祝う、甘茶ならぬ甘露の雨といえましょう。
さて、駒澤大学は、江戸・駿河台の吉祥寺内に創設された、仏典・漢籍などの教育研究を行う「学林」に起源を発して以来、425年に及ぶ長い歴史を刻み、今日では、7学部8大学院研究科を擁し、1万5千人を超える学生からなる総合大学へと大きく発展しました。
この「学林」に端を発する伝統を象徴するのが、壇上に祀られている仏像です。正面はお釈迦様、右側は福井県の大本山永平寺を開かれた道元禅師、左側は横浜市の大本山總持寺を開かれた瑩山禅師で、合わせて「一仏両祖」とお呼びします。
およそ私立大学は、それぞれ「建学の理念」を定め、その特徴を活かした教育・研究をめざしています。本学では「仏教の教えと曹洞宗立宗の精神」を掲げ、その教えにもとづく教育・研究を実践してきました。「建学の理念」については、1年次の必修科目「仏教と人間」の授業で学ぶことになりますが、皆さんには、そうした学びをとおして、道理をわきまえ、適切に判断する力や心の働きを意味する「智慧」と、他をいつくしみ、哀れむ「慈悲」の心を身に付けてほしいと願っています。
このような「智慧」と「慈悲」が一体となった心のあり方を、私は、「柔軟な心(柔軟心)」と言い表しています。それは、これから始まる大学生活のみならず、その後の人生においても、皆さんを支えるバックボーンとなり、かつまた、そうした心を身に付けることが、皆さんのなかに駒澤大学の一員としてのアイデンティティを育むことに繋がるでしょう。
社会に目を移せば、国内外ともに「うねりと混迷」の只中にあります。皆さん方の世代が社会に巣立つときには、国内の種々にわたる社会的要求や需要を満たすだけでなく、国際的にも意義ある良好な関係を構築し、ポジティブ・ジャパンを世界にアピールしてほしいとの期待が、ますます強まってゆくことでしょう。その期待に応えるためには、人間としての幅や広がりを示す教養と、他者からの信頼の基礎となる専門的な知識・技能の両面を具えることが求められます。
その意味で、それぞれの職場・持ち場に立った10年後の皆さんを支えるものは何か。自分なりに、想像をめぐらしてみてください。体力・気力があふれ、創造的活動を行い、社会や仲間から信頼される幸福感に満たされている10年後のあるべき姿を、自分自身のビジョンとして思い描いてみてください。むろん、いきなりそう言われても難しいでしょう。しかし大学生という新たなステージに立つこれからは、常に自分の将来のありようを構想しつつ、今なすべきことを考える、そうしたものの考え方、思考の回路が求められてきます。
皆さんは、人生の大きな選択の結果として、この駒澤大学に入学されました。皆さんが送られる、これからの大学生活は、智慧の象徴である優れた教授陣との出会い、そして、個性豊かな友人たちと共有する時間、慈悲の心に溢れる職員の支援や協力を糧として、実り豊かなものとなるでしょう。自らの将来ビジョンをしっかりと持つことによって、自らが選択した道は広がり、学問に対する興味と関心は深まってゆきます。
いかなる状況にも、しなやか、かつ適切に対応できる「柔軟な心」を身に付け、人間力を高めてください。そして、組織、地域から世界に広がる、さまざまな領域で、大いに活躍しうる教養力、専門力、思考力、表現力を修得することを心から念願しています。学問、スポーツ、文化活動等にわたる充実した大学での生活を通し、希望に目を輝かせ、自信に満ち溢れる皆さんになっていただくために、私どもすべての教職員は、全力で応援していく所存です。
詩人であり書家である相田みつをは、言います。「歩くから道になる。歩かなければ草がはえる」と。新入生の皆さん、まずは第一歩を踏み出しましょう。
以上、簡単ではございますが、平成29年度入学式にあたっての「式辞」とさせていただきます。
平成29年4月8日
駒澤大学 学長 長谷部 八朗